生物工学ちゃんの実験室

PCRによる制限酵素部位の付加

クローニングしたい遺伝子の末端に、任意の制限酵素サイトをPCRプライマーを用いて付け足す方法です。ベクターへの組込みに必須のテクニックであり、プライマー設計が全ての鍵を握ります。

原理

PCRプライマーの5'末端側に、鋳型DNAとは結合しない「付加配列(制限酵素サイト+保護塩基)」を設計します。
1サイクル目では付加配列は浮いていますが、2サイクル目以降に相補鎖が合成されると、以降の増幅産物の両端には完全に制限酵素サイトが組み込まれます。

1. プライマー設計の鉄則

プライマーは必ず以下の3つの部分から構成されます。

構造: [保護塩基] - [制限酵素サイト] - [アニーリング配列]

① アニーリング配列 (Template Binding)

鋳型DNAと特異的に結合する部分です。18〜25塩基程度で、この部分だけでTm値(55〜60℃)を計算します。制限酵素サイト部分はTm計算に含めません。

② 制限酵素サイト (Restriction Site)

使用したい制限酵素の認識配列(例:EcoRIなら GAATTC)です。

③ 保護塩基 (Guard Bases / Clamp) ★最重要

制限酵素がDNAを切断するためには、認識配列のさらに外側に、酵素が座るための「足場」が必要です。これを保護塩基と呼びます。
これを忘れると、PCRは成功しても制限酵素で全く切れないという悲劇が起きます。

  • 長さ:酵素によりますが、通常 3〜6塩基 あれば安心です。
  • 配列:何でも良いですが、GC含量を稼ぐために GC を多めにしたり、ATA などを入れたりします。
  • 注意が必要な酵素:NdeI, NotI, SalI などは、特に長い足場(6〜8塩基以上)を要求する傾向があります。

2. 設計例:GFP遺伝子をEcoRI/BamHIサイトに入れる場合

鋳型 (GFP): ATG AGT AAA GGA... (中略) ...TTT GTA TAG
目的:5'側に EcoRI (GAATTC)、3'側に BamHI (GGATCC) を付加する。

Forward Primer: 5'- AAACGC GAATTC ATG AGT AAA GGA GAA GAA C -3'
Reverse Primer: 5'- AAACGC GGATCC CTA TAT ACA AAT TTT TGT -3'
※ Reverseプライマーは裏返し(逆相補鎖)にして設計するのを忘れずに!Stopコドンを含めるかどうかも要確認。

3. 実験プロトコル

Step 1: PCR反応

通常のPCRと同様ですが、以下の設定を推奨します。

  • アニーリング温度:「アニーリング配列」部分のTm値を基準に設定します。
  • サイクル数:通常より少し多め(30〜35サイクル)。末端まできれいに合成された産物を増やすためです。
  • 酵素:変異を防ぐため、高正確性酵素(KOD Plus, PrimeSTARなど)の使用を推奨。

Step 2: 精製

PCR産物をカラム精製(PCR Clean-up)します。
重要:PCR反応液中のポリメラーゼが残っていると、次の制限酵素処理中にDNA末端を削ってしまうことがあります。必ず精製しましょう。

Step 3: 制限酵素処理

付加したサイトの制限酵素で消化します。保護塩基があるおかげで、末端でも効率よく切断されます。

反応条件:37℃, 2時間〜オーバーナイト(末端切断は効率が悪い場合があるため、時間は長めにとるのが無難です)。

Step 4: 再精製

切断によって生じた短い断片(保護塩基部分の数bp)や酵素を除去するため、再度カラム精製を行います。

💡 成功のコツ:フレームシフトに注意!

発現ベクター(His-tag付きなど)に入れる場合、制限酵素サイトの直後で「読み枠(フレーム)」がずれないか必ず確認してください。
必要であれば、制限酵素サイトと遺伝子の間に1〜2塩基の「スペーサー」を入れて調整します。
例:...[BamHI]-G-[ATG]...

4. トラブルシューティング

⚠️ 制限酵素で切れない(ライゲーションできない)

原因:保護塩基が短すぎる。
対策:

  • メーカー(NEBなど)のカタログにある「Cleavage Close to the End of DNA Fragments」という表を確認してください。酵素ごとに「最低何塩基必要か」が書いてあります。
  • どうしても切れない場合は、一度「TAクローニング」でTベクターに入れてから、そのプラスミドを制限酵素で切る方法(サブクローニング)が確実です。

⚠️ PCRバンドが出ない

原因:5'側の付加配列が長すぎて、プライマーが二次構造を作っている。
対策:

  • アニーリング温度を上げる、または2ステップPCR(アニーリングと伸長を高温で行う)を試す。
  • DMSOなどの添加剤を加える。