部位特異的変異導入 (Site-Directed Mutagenesis)
プラスミド上の特定の塩基を置換、挿入、または欠失させる技術です。本プロトコルでは、最も汎用性が高く確実な「Inverse PCR法(Back-to-Back法)」について解説します。
原理
[Image of Site-Directed Mutagenesis Primer Design]
プラスミドの変異を入れたい箇所から、背中合わせ(Back-to-Back)になるように設計したプライマーでプラスミド全周をPCR増幅し、直鎖状のDNAを作ります。
その後、末端をリン酸化して自己ライゲーションさせることで環状に戻します。
最後に、メチル化DNAのみを切断する制限酵素DpnIで処理し、鋳型とした(大腸菌由来の)野生型プラスミドだけを分解して除去します。
1. プライマー設計の極意
成功の鍵はプライマー設計にあります。以下の基本ルールを守りましょう。
- 5'リン酸化:PCR産物をライゲーションするため、プライマーの5'末端はリン酸化されている必要があります(またはPCR後にT4 Polynucleotide Kinaseで処理)。
- Tm値の計算:変異配列(ミスマッチ部分)や付加配列は含めず、鋳型と完全にハイブリダイズする部分だけでTm値を計算します(60℃前後推奨)。
ケースA:塩基置換(Point Mutation)
特定のアミノ酸を変えたい場合など。
Reverse: 5'-AGC CAG CGT TGG... (Tm計算範囲) -3'
※ 変異(黄色)をプライマーの5'末端付近に配置します。相補的である必要はありません。
ケースB:欠失(Deletion)
特定のドメインや領域を削りたい場合。
Reverse: 5'- CCG ATA GGC... (欠失させたい領域の直前から設計) -3'
※ 削りたい領域を挟んで、外側に向かってプライマーを設計します。
ケースC:挿入(Insertion)
His-tagや短いリンカー配列などを入れたい場合。
Reverse: 5'- CCG ATA GGC... -3'
※ 挿入したい配列(黄色)をForwardプライマーの5'側に付加します。長すぎる場合はReverse側にも分割して付加します。
2. 実験プロトコル
Step 1: PCR反応
全周を回るため、伸長性の高い高正確性酵素(KOD One, PrimeSTAR Maxなど)を使用します。
| 試薬 | 量 (50µL系) |
|---|---|
| 2x High-Fidelity Buffer | 25 µL |
| Forward Primer (10µM) | 1.5 µL |
| Reverse Primer (10µM) | 1.5 µL |
| Template Plasmid | 10 - 50 ng (少なめに!) |
| 滅菌水 | up to 50 µL |
サイクル条件: 98℃ 10sec → [98℃ 10sec / 55-60℃ 5sec / 68℃ 30sec/kb] x 12-15サイクル
※ サイクル数を少なくすることで、予期せぬエラーが入る確率を下げます。
Step 2: DpnI 処理
PCR産物 50 µL に、制限酵素 DpnI を 1 µL (10-20 U) 直接加え、37℃で1時間インキュベートします。これで鋳型プラスミドをバラバラにします。
Step 3: ライゲーション & 形質転換
市販のキット(Ligation highなど)や、KLD反応(Kinase, Ligase, DpnI mix)を使用します。
- DpnI処理済みのPCR産物の一部を取る。
- T4 DNA Ligase(および必要ならT4 PNK)を加えて反応させる(室温 30分〜1時間)。
- 反応液を用いてコンピテントセルを形質転換する。
💡 成功のコツ
- プライマーは5'リン酸化済みを注文する:これが一番楽で確実です。自家製でPNK処理をする場合はATPを忘れずに。
- PCR産物の確認:DpnI処理の前に、5 µLほど電気泳動して、プラスミド全長のバンドが見えるか確認しましょう。バンドが見えなければ次のステップに進んでも無駄です。
3. うまくいかない時のリデザイン(再設計)戦略
⚠️ ケース1:PCRバンドが出ない(増幅しない)
原因:プライマーの結合効率が悪い、二次構造ができている。
対策:
- プライマーの位置をずらす:今の位置から数塩基〜10塩基ほど外側にずらして再設計します。開始位置を変えるだけで劇的に改善することがあります。
- アニーリング温度を下げる:設定温度を2〜3℃下げてみるか、DMSOを添加します。
⚠️ ケース2:コロニーが生えない
原因:ライゲーションの失敗、末端のリン酸化忘れ。
対策:
- プライマーがリン酸化されているか注文履歴を確認する。
- PCR産物の精製を行ってからライゲーションする(持ち込んだバッファー成分の阻害を防ぐ)。
- In-FusionやGibson Assembly法に切り替える(変異を含むオーバーラップ配列を持たせて連結する)。
⚠️ ケース3:変異が入っていない(Wild Typeばかり)
原因:DpnI処理が不完全で、鋳型プラスミドが残存している。
対策:
- 鋳型プラスミドの量を極限まで減らす(5-10 ng)。
- DpnIの量を増やす、または反応時間を延ばす。